篆刻ブログ

篆刻の作り方や、篆刻の情報を、簡単なことばで説明します。

篆刻作り方

印材を整える(篆刻の作り方4)

篆刻の印材は基本的に「石」です。でも、相当やわいです。ロウセキとは言いませんが、それ系と思っていいですね。(ロウセキって今時通じるのかな?)
 石がきれいなら、彫る面だけやすりがけします。いまいちな場合は、6面全部磨きます。
買った印材は、大抵この3種類です。
    《印材のタイプ》
  1. ピカピカに5面が磨いて、ワックスっぽいものまで塗ってある。
  2. 切り出した後、多少やすりがけしてある。
  3. 多少やすりがけした上に、油っこいワックスが塗ってある。
印材の臘
臘のようなワックスが塗ってある印材

(1)の状態は、高価な材料に多いです(当然だ)。廉価な物でも、なんとかこのタイプとみなせることが多いかと。
(2)の状態は、 安い材料に多いのですが、だからといって悪い材料とは限りません!磨けば、すばらしい材料になる物もあります。丸ノコで切った跡が側面に残っているのは、いただけないので磨いておきたい。
(3)の状態は、安い青田石によくあります。爪で削りとれるくらいのやわらかいワックスというかロウみたいなものです。

ツヤのある印材
高価ではないがツヤのある印材
ワックスというか塗装が施してある
印面の鋸目
彫る面は細かいノコギリ目があるので
#320のやすりで仕上げる


《印材のタイプ別磨き方》
まず目的は、彫る面を平らに整えるためにやります。
上の(1)の時は#320のみでOK。
(2)の場合とかで、すこし修正が必要な時は#180でみがいて、#240〜#320と番手を上げてペーパーがけします。彫る面は#320で最低限いいんですけど、他の5面をペーパーがけする場合は仕上げが#320だと、結構粗い感じになるので、やっぱり#600くらいまでかけたいですね。
(3)の場合は6面かけると、キレイになって印への愛情が高まるんじゃないかな。そのまま紙やすりをかけると、目詰まりしてすぐにやすりがダメになるので、要らないカードとかプラスチックな物で、こそげ取ります。 
耐水ペーパー
耐水ペーパー(#320)ペーパーは2等分か3等分にして使ってます


《初心者にありがちな例ー印面が平らにならない!ー》
それで、初心者によくありがちなのが、平らにペーパーがけしようとして、最初より悪くなる場合です。よくあるというより、人並みの方はまずこうなります。だんだん斜めってきて、机に置くとなんか起き上がり小法師みたいにゆらゆらするーみたいなことになります。そんな時に、いろいろな指導方法(丸を描きながらペーパーがけする、材料の下の方を持つ、2つ一緒に材料を握って等)が言われますが、僕の場合は「さらっとペーパーがけしとく!」です。「だいたい平らっぽいかな」という材料の時、お店の棚にならんでたままじゃ、ちょっとあれなので、#320のペーパーを「さらっと」かけます。はじめての人が、せっかく篆刻をしてみたいと思ったんだから、「ペーパーがけが一番苦労したけど、楽しかったー」なんていう感想になるのは残念なんで、この工程は適当にしときましょう。だいたい押せますから。やっぱり、彫って押すのが篆刻の楽しいところでしょー。
 

篆刻のデザインを練る(篆刻の作り方3)

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こんなスケッチをします

篆刻の難しい所は、はじめての人は大抵、彫る作業だと言い、玄人はデザインすることが難しいと言うでしょう。デザインする作業を印稿(いんこう)を練るとか言いますが、特殊な言葉はあまり使わないことにします。
img-kei-jishoそれで、まずは字書で調べた文字を四角(丸でも不定形でもいいけど、作りたい形)に書き込んで、ラフなデザインを考えます。デザインのまとめかたは、その内容ごとに違ってくるので、語るのが難しいです。まずは、実際にデザインしてみましょう。

img-kei-suketch字書から文字を写して、イメージを考えつつ、スケッチを書きます。今回は、1文字なので、四角の中で少し右に寄せてみようか?とか文字の重心を高くしてみようか?とか、縁の太さをどのくらいにしようか?とか考えてみます。

img-kei-inkou そして、本番のデザインはこんなです。原寸大に書きます。僕は白い紙に黒の墨で書きます。直しは修正液を使ってもいいですけど、細かく修正するには毛筆がいいので胡粉(ごふん)という絵の具を使ってます。本当は、黒い紙に赤字で書くのがちゃんとしたやり方です。
彫るときは、このデザインと寸分違わないように彫るのが目標なので、この段階で細部まで本気のデザインをします。 

彫る文字を決める(篆刻の作り方1)

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篆刻(てんこく)をはじめる第一歩は、何を彫るか決めることでしょう。
文字が基本ですが、図柄を彫った古典(紀元前のハンコなど)もあります。
はじめは、画数の少ない1文字を15mm角くらいに彫るのが、ベターでしょうか。使い道としては、10mmくらいだと、手紙に押すとか、一筆箋とか付箋とかにも使いやすいですが、細かい作業になります。
書道に使う人は、まず落款印(らっかんいん、書作品のサインの一部として押す)を作りたいのだと思いますので、落款印の種類を説明します。
その前に、印には文字を彫るものと、文字以外を彫るものの二種類があります。文字を彫って押した時に文字が白くなるのを「白文印」(はくぶんいん)といいます。反対の文字以外を彫って文字が赤くなるものを「朱文印」(しゅぶんいん)といいます。よく「どっちが彫りやすいですかー?」って質問されますが、人それぞれだと思います。でも白文の方が簡単という意見も多いでしょうかね。

落款印の種類
  1. 姓名印(せいめいいん)
  2. 雅号印(がごういん)
  3. 関防印(かんぼういん)・引首印(いんしゅいん)
代表的には、この3種類があります。(他にもいろいろあります)
伝統的な書道としては、一応ルールがあるので、それも踏まえて説明しましょう。

雅号印
img-dohou18mm 書道をする人は、雅号(がごう)を使うことも多いです。ペンネームとか芸名とかと同じです。作品にも、その雅号を彫った印を押します。たいてい文字が赤になる朱文(しゅぶん)ですが、白文(はくぶん)でも構いません。

姓名印
img-kenin-s 書いた人の姓や名を彫った印です。ふつうは白文(文字が白)で彫りますが、そうでなくてもよいです。 例えば「山田太郎」さんの場合、四角の右上から山田(改行)太郎と彫ります。「太郎之印」と彫ることもあります。姓抜きです。結婚しそうな女性は姓なしで作るとよいとかいう話しもあります。ただし、「山田之印」はNGです。なぜかそういう伝統です。あと「山氏太郎」とか「田氏太郎」とか「山太郎印」とか姓を1文字に省略する場合もあります。これは「中国人みたいでクールだぜ!」ってことだと思います。

関防印・引首印
img-seiitu 書作品の右上に押す印で、たいてい縦長長方形です。おめでたい言葉や、作品に趣を添えるような文言を彫ります。姓名印、雅号印とセットで3つ押すスタイルが、伝統的な漢字作品のスタイルですが、今時な作品は、ハンコ1個だったりします。朱文か白文かはこだわりません。2文字か3文字がよく使われますが、4字〜6字とかもあります。 必ず3個(またはそれ以上)セットで押すので、「雅号印+関防印」とか「姓名印+関防印」という2個セットでは使いません。

篆刻の文字を調べる(篆刻の作り方2)

印に彫る文字が決まったら、篆書を調べます。篆刻では篆書を使って彫ります。
広い意味での篆書は、中国の古代文字「甲骨文」から秦の始皇帝が文字を統一するまでの、少なくとも1000年の間使われていた書体です。中国は広いので、地域の違いもあるし、年代の違いもあり、さまざまな篆書があるので、細かい意味での書体を揃えてハンコを作らないといけないです。
ざっくりと主なものをわけると
  1. 甲骨文(こうこつぶん)
  2. 金文(きんぶん)
  3. 小篆(しょうてん)
  4. 印篆(いんてん)
という4つになりますでしょうか。

甲骨文は
亀の腹甲や牛の肩甲骨に彫られてたという文字で、刃物で彫ったので直線的だと言われております。動物をもろに描いたような、ザ象形文字みたいな文字もあって萌えます。

金文は
青銅器に鋳込まれた文字です。お祭り(っていうか礼拝とか呪術とかみたいな感じ?)で使われた酒器とか大皿みたいなものとか、大鍋みたいなものが、いまでも残ってます。
けっこう曲線的です。最初は短文だけど、時代が下ると長文もあります。

小篆は
秦の始皇帝が文字を統一した時の書体。左右対称で縦長、文字の太さが一定というもので、狭い意味での篆書として、小篆を指すことも多いですね。李斯(りし)っていう今の日本の総理大臣みたいな人が書いたことになってます。当時、石に彫ったものが、中国にいくつか残ってます。
その後、清時代に篆書ブームが興って、書の達人がこの小篆をもっともっと洗練させました。

印篆は
四角いハンコにデザインする為に、四角っぽくした篆書です。主に漢時代のハンコに使われた書体を指します。志賀島で見つかった金印「漢委奴国王」は、この時代の印の最高峰ですね。

字書/字典
篆書を調べるのに、字書が必要です。無いとだめです。ちなみにこういう文字のジショは「字書」って書きますね。篆書は、近年研究が進んでいるので、あんまり古い本はよくないです。お勧めをいくつか挙げましょう。
  • 標準篆刻篆書字典 牛窪 梧十
  • 総合 篆書大字典 綿引 滔天
  • 必携 篆書印譜字典 蓑毛 政雄
  • 角川書道字典 伏見 冲敬
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牛窪先生の「標準篆刻篆書字典」は初心者にチョーお勧めです。(上の写真は開いた所)篆書の種類から小篆、印篆、金文、古ジの4種類が載ってます。同じ横列の文字を組み合わせれば、間違いないというわけです。
綿引先生の 「総合 篆書大字典」はこの中では一番新しい本で、とてもよくまとまっている篆書総合字典です。これ一冊でそうとう使えます。
あと2冊は、篆書の純粋な字典ではないのですが、
蓑毛先生の 「必携 篆書印譜字典」は篆刻の押した印影(いんえい)を集めた字典です。印をデザインする時に参考になります。そして、代表的な篆書も各文字にペン書き風に書かれていますので、篆書の字書としても使えます。
伏見先生の「角川書道字典」は、今となってはもう古い字典になってしまうかもしれませんが、篆書だけでなく楷書や行書草書隷書、ひらがなまで古今の古典から文字を収録したもので、信頼できる字典です。 

篆刻の道具(用具)

篆刻をするのに必要な道具
  1. 印刀(いんとう)
  2. 印材(いんざい)
  3. 印泥(いんでい)
  4. 小筆(2本)
  5. 墨(黒・朱)
  6. 紙ヤスリ
最低限にしましたら7つです。その他にも、ティッシュペーパーとか、手鏡、歯ブラシなど使います。一般家庭にありますよね。あと、墨を入れる器は、液体墨なら食品トレーとかでもよいですけど、やっぱり硯は必要ですかね。

篆刻をするのにあると良い道具
  1. 印床(いんしょう)
  2. 印辱(いんじょく)
  3. 二面硯(にめんけん)
  4. 字書(じしょ)
印床(くさび式)
印床(くさび式)

篆刻の道具をどこで入手するか
ズバリ「書道専門店」です!日本国内、各都道府県に1店くらいはあります!(2015.9調べ)敷居が高そうですが、店員さんは道具のプロですから、聞いてみるといろいろと教えてくれると思います。ただのおばちゃんのような方も、すごい詳しい人だったりします。
専門店以外では、画材屋さん(クラフトショップ)でしょうか。ある程度の道具は置いている店も多いと思います。入門セットなどもよく見かけますね。「手芸とアート」みたいな店でも取り扱っているかも。
意外な所では、ホームセンターでしょうか。かなり大型のホームセンターで、篆刻コーナーに出会ったことがあります。
あと、当然ネットショップでは、何でも入手できます。ネットで売っていない道具はほぼ無いと思います。
では、それぞれ解説していきましょう。

印刀(いんとう)
印刀篆刻の道具は、いちいち頭に「印」ってつきますけど、いわずもがな、これは彫るための刃物です。両刃で、彫刻刀的に言うと平刀のような形です。角が90度のやつです。角が尖っている45度くらいのものは、篆刻には基本使いません。もう一回書きますが両刃です。片刃は石の篆刻には使いません。安いものは200円くらいから売っていると思います。 高価なものは、良質で使いやすいですが、安価なものでも、彫ることはできます。

印材(いんざい)
青田石・印材 石を使います。青田石(せいでんせき)というのが人気がありますが、近年品質が落ちて割れや砂(硬い粒)があるものが多いので、初めての人には彫る前に見極めが難しいです。最初は巴林石(ぱりんせき/ばりんせき)がお勧めです。よく流通もしていますし、やわらかいです。寿山石というのも、ムラがありますが彫りやすいと思います。
青田石

印泥(いんでい)
印泥印を押すための特殊な朱肉です。ふつうの朱肉ではきれいに押せませんので、やはり必要です。「泥」と言うことで、べたべたしています。買ってきた最初はよく練ってから使います。「西冷印社」(冷はサンズイ)というブランドが、昔から信頼されてます。色は明るい朱色系から、暗いあずき色系などありますが、最初は「光明」という朱色系のものがおすすめです。比較的安い色です。
サイズは1両装(30g)だと、2センチ角くらいの印でも余裕をもって使えるでしょう。1/2
両装サイズだと、容器のふちに印材が当たりそうになるので、用心して使わなければなりません。
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印泥の入れ物は、下のお皿部分が平らだと、印材を傷つけにくいです。

小筆(2本)
デザインを練る時や、印材に文字を書く時に使います。朱色用と黒用の二種類が必要です。中国製の「写巻」というのがスタンダードですが、先っぽが細くて細かく書ける筆がいいです。一般的に書道の筆は、毛が茶色だと硬め、白だとやわいことが多いです。写巻は茶色系の毛を軸にして、猫だかウサギだかの白い毛を穂の根本外側に巻いています。 精品 双料写巻
「精品 双料写巻」ちょっと大きめですが、お勧めです。「写巻」っていうのは銘柄で、上海工芸とか蘇州筆とかいうのは工場の名前です。

墨(黒・朱)
shuboku墨汁(液体墨)でよいです。ただし、朱色は墨汁だと乾きがわるかったり、乾いた後もテカったりベタっとしたりするので、固形の朱墨(しゅぼく)を硯で磨るのが一番です。もちろん、黒い墨も磨った方がよいですが。


彫った印を押す時の紙が必要です。薄手の半紙などがいいですが、こどもお習字用の半紙などでも大丈夫かな。コピー用紙はさすがにNGですね。篆刻作家は紙にもこだわりがあって連史紙がいいとか玉版がいいとか、いろいろあります。

紙ヤスリ
印材を整えるのに使います。最終的には彫る面(印面)を#320で平面に研磨しておけば最低限よいでしょう。そのために、面が傾いていたり、欠けていたり、キズがひどかったりする場合は、状況に応じて粗い番手から#180、#240と順に細かい目のやすりで磨いていきます。
目の粗さではなく紙ヤスリって、金属用だのいろいろ種類がありますけど、#320で仕上げる程度なら、ふつうに売っている茶色い空研ぎ用でよいとしましょう。もっとしっかり研磨する時は耐水ペーパーを使います。